「手術が怖い」を分解する|鼠径ヘルニア日帰り手術
BREAKING DOWN THE FEAR
「手術が怖い」の中身を分解する — 麻酔・カテーテル・痛み・入院・仕事
脱腸とも呼ばれる鼠径ヘルニアは、自然に治る病気ではありません。それでも「手術が怖い」という気持ちから、相談そのものを後回しにしてしまう方は少なくありません。夜、眠れないほど考えてしまう、という方もいらっしゃいます。
ここで一度立ち止まって考えていただきたいことがあります。その「怖い」は、本当に手術そのものが怖いのでしょうか。麻酔科専門医である代表が日々の診察で感じるのは、多くの場合、不安の正体は「手術」という大きな塊ではなく、麻酔・痛み・尿の管・持病・当日帰れるか、といった具体的な一つひとつの心配だということです。本稿は、その「怖い」を分解する入口です。それぞれの心配に当院がどう向き合うかを品よく正直にお伝えし、より詳しい中身は専門の記事へご案内します。
Breaking Down the Fear
「手術が怖い」は、本当に手術そのものが怖いのですか?
結論:多くの場合、不安は「手術」全体ではなく、麻酔・痛み・尿の管・持病・当日帰宅という個別の心配に分けられます。
「怖い」と感じているとき、その中身は人によって違います。そして、いくつかの心配が重なって、ひとつの大きな「怖い」に見えていることがよくあります。当院の診察では、漠然とした不安をそのままにせず、次のように分けて確認していきます。
- 全身麻酔から、きちんと目が覚めるのか
- 手術中や手術後の痛みは、どのくらいなのか
- 尿道カテーテル(尿の管)は、必ず入れるのか
- 持病や飲んでいる薬があっても、受けられるのか
- 手術当日に、本当にその日のうちに帰れるのか
- 仕事は、どのくらい休まなければならないのか
不安を分けて考えると、確認すべきことも具体的になります。麻酔の不安には麻酔の方法と覚めたあとの確認、尿の管の不安には麻酔法と手術の組み立ての話、持病の不安には術前評価というように、それぞれに対応する説明があります。多くの「怖い」は、情報がないことから来る怖さです。中身が見えれば、ずいぶん小さくできます。以下、ひとつずつ、結論からお伝えしていきます。各項目のより詳しい説明は、それぞれの専門記事でご用意しています。
Waking from Anesthesia
全身麻酔から、ちゃんと目が覚めますか?
結論:短時間で効く麻酔薬を点滴で持続投与し、眠りの深さをその場で細かく調整します。投与を止めれば速やかに覚めます。
「眠ったまま目が覚めなかったら」という不安は、麻酔の話の中でも特に多くいただきます。実際の全身麻酔は、いちど薬を入れたら勝手に眠り続ける、というものではありません。鼠径ヘルニアの日帰り手術では、短時間で効く麻酔薬を点滴で持続的に投与し続けることで、眠っている状態を保ちます。薬が入っている間だけ眠っていただき、手術が終わって投与を止めると、薬が速やかに体から抜けて、目が覚めていきます。
「すぐに効果が切れる薬」と聞くと、かえって危ないのではと感じる方もいらっしゃいます。けれども麻酔科の立場では、これはむしろ逆です。効きはじめも、効果が消えるのも速い薬を持続的に使うからこそ、麻酔科専門医が眠りの深さを“アクセルとブレーキ”のように細かく調整できます。血圧や呼吸、手術の進み具合といったその場の状態に合わせて、少し浅く・少し深くとすぐに対応できることは、効果が長く残って調整しにくい状態よりも、安全のために管理しやすい設計です。
つまり「自然に覚めるのを待つ」のではなく、「薬の量で眠りの深さを保ち、止めれば覚める」を、麻酔科医が手術の間ずっと管理しています(覚めるまでの時間には個人差があります)。
麻酔科専門医の視点では、「覚めること」だけでなく「覚めたあとの質」を大切にしています。覚めたあとに、呼吸や血圧が安定しているか、吐き気が強すぎないか、水分がとれるか、歩けるか、痛みが我慢できる範囲かを確認します。これらを一つずつ満たしていることを確かめてから帰宅していただく、という設計です。「早く帰すため」ではなく、「帰ってよい状態かを確かめるため」の時間です。
当院では、麻酔科専門医である代表が、術前の評価から麻酔の設計、覚めたあとの確認、帰宅の判断までを一つの流れとして担います。麻酔の安全への考え方は、別記事「麻酔と安全への取り組み」でさらに詳しくお伝えしています。
Pain During and After
手術中・手術後の痛みは、どのくらいですか?
結論:全身麻酔に神経ブロックを併用して術後の痛みをやわらげます。あえて痛みをゼロにはせず、じんわりした程度に抑えます。
手術中は全身麻酔で眠っているため、痛みを感じることはありません。問題になりやすいのは、麻酔から覚めたあとの痛みです。当院では、全身麻酔に加えて神経ブロック注射を併用し、術後の痛みをやわらげる工夫を行います。ブロック注射で残った痛みは、鎮痛剤の使用でだいたいコントロールできます。
ここで、当院が大切にしている考え方をお伝えします。麻酔を強くして術後の痛みをほとんど感じないようにすることも、理論上は可能です。ただ、当院ではあえてそうしていません。痛みをまったく感じないと、つい無理に動いてしまい、かえって体に負担がかかることがあるためです。強い痛みは抑えつつ、「じんわりとした痛み」が残る程度に調整しています。
ですから、「まったく痛くない」「痛みゼロ」と言い切ることはしません。痛みの感じ方には個人差があり、術後に傷の違和感や痛みが出ることはあります。当院は腹腔鏡(TAPP法)で行うため、傷は約5mm×3か所と小さく済みますが、痛みがゼロになるわけではない、というのが正直なところです。
当院でブロック注射などである程度の鎮痛を行っているためか、術後にお話をうかがうと、痛みよりも「お腹の張り」を気にされる方が多い印象です。腹腔鏡手術では、炭酸ガスでお腹をふくらませた状態で手術を行います。終了時にガスはしっかり抜きますが、組織に溶け込んだガスが一時的にお腹の中へ戻り、張りとして感じられることがあります。このガスは、時間とともに呼吸を通じて自然に抜けていきます。実際、術後の経過をうかがう中でも、夜眠れないほどの強い痛みの訴えはほとんど聞かない、という印象です(痛みの感じ方には個人差があります)。
大切なのは、痛みが出たときにどう対処するかをあらかじめ決めておくことです。帰宅時には痛み止めの使い方をご説明し、強い痛みが続くときの連絡先もお渡しします。痛みを「我慢するもの」ではなく「管理するもの」として扱う、という考え方です。痛みへの備えや術後の経過の詳しい説明は、別記事「術後の痛みと回復」でお伝えしています。
Urinary Catheter
尿道カテーテル(尿の管)が怖いのですが、必ず入れますか?
結論:尿の管が必要かどうかは、麻酔の方法と手術の組み立てで決まります。当院の設計では入らない場合があります。
当院が術前の説明で早めにお伝えするようにしているのが、この尿の管の話です。尿の管の要否は、中身がはっきりすれば見通しの立つ事柄だと考えているため、最初の段階で丁寧に説明する価値がある、と当院は考えています。これは患者さんの行動や心理を語るものではなく、なぜ当院がこの順番で説明するのかという、院側の説明設計の考え方としてお伝えしています。
尿の管が必要かどうかは、麻酔の方法と手術の組み立ての組み合わせで決まります。一般的に、前方を切開する方法に脊椎麻酔(下半身麻酔)を組み合わせる場合は、麻酔のあと下半身の感覚や運動が戻るまでに一定の時間がかかり、その間の排尿のために管を要することがあります。
一方で、腹腔鏡下に短時間の全身麻酔で行う設計では、覚めたあとにご自身で排尿できる状態に戻りやすいため、尿の管を入れない設計が可能になります。尿の管を入れないことには、尿路感染(カテーテルに関連する感染)の機会を減らすという安全面の意味もあります。麻酔の種類によって覚醒や下半身の回復までの経過が異なる、という点が、尿の管の要否に関わります。
なお、尿の管を入れるかどうかは患者さんの状態によっても変わるため、すべての方で必ず不要になると約束するものではありません。診察時に、その方に合った方法をご説明します。麻酔法ごとの違いと、尿の管との関係は、別記事「麻酔法の比較(全身・脊椎・局所)」で詳しく整理しています。
Comorbidities & Medications
持病や飲んでいる薬があっても、受けられますか?
結論:受けられる場合がありますが、病名だけで決めず、術前評価で安全に行えるかを確認します。薬は自己判断で止めないでください。
高血圧、糖尿病、心臓や肺の病気、脳梗塞のあとの内服などがあっても、病状が安定していて、麻酔や術後の観察を安全に行えると判断できれば、日帰り手術を検討できることがあります。ただし、「持病があっても必ず大丈夫」と一言で済ませることはできません。同じ病名でも、薬の内容や検査値、息切れの程度、最近の入院歴によって判断は変わります。
特にお伝えしたいのは、いわゆる血液をサラサラにする薬(抗凝固薬・抗血小板薬)についてです。自己判断で止めないでください。 出血を心配して勝手に中止すると、脳梗塞や心筋梗塞などのリスクにつながることがあります。薬の名前・飲んでいる理由・処方している診療科を確認したうえで、必要に応じてかかりつけの先生と、休薬できるか・いつ再開するかを相談します。
術前評価の結果、日帰りが適さないと判断した場合は、その理由をご説明し、入院管理ができる連携医療機関への紹介を検討します。これは治療をあきらめることではなく、より安全な場所で受けていただくための判断です。持病や薬の不安については、別記事「高齢者・持病のある方の術前評価」でさらに詳しくお伝えしています。
Same-Day Discharge
本当にその日に帰れますか、入院は要りませんか?
結論:来院から帰宅までおおむね4時間が目安で、入院費は不要です。ただし帰宅の可否は当日の状態で確認します。
当院での滞在は、手術そのものの時間だけでなく、術前の準備と術後の観察を含めて、おおむね4時間が目安です。手術が終わったあと、覚醒・呼吸・血圧・吐き気・痛み・出血・歩行・水分摂取などを確認し、基準を満たしたことを確かめてから帰宅していただきます。
入院を前提としていないため、入院費はかかりません。なお、診察や手術にかかる費用は保険診療で、負担割合や所得区分によって自己負担額が変わる目安です。帰宅後も、翌日の電話確認や、つながる緊急連絡先を用意しています。日帰り手術の安全は、手術室の中だけでなく、帰宅後の連絡体制まで含めて設計するものだと考えています。
ただし、状態によっては観察を長めに行うことや、別の対応を検討することもあります。「必ず4時間で帰れる」と保証するものではなく、あくまで安全を確かめた結果として帰宅していただく、という順番です。帰宅の判断基準は別記事「4時間で帰れる理由(帰宅基準)」で、費用の目安は別記事「費用早見表」で、それぞれ詳しくお伝えしています。
Return to Work
仕事は、どのくらい休む必要がありますか?
結論:通院は基本2回が目安で、多くの方は翌日から仕事に復帰できます。ただし、走る・重い物を運ぶといった肉体労働は、再発予防のため術後2週間程度お控えいただきます。
通院は、初診と手術日の基本2回を軸にしています。初診で診察・術前検査・手術の説明を行い、条件が整えば手術日を調整します。術後は、翌日の電話確認と、10日から2週間前後の術後確認を行います。状態やご希望に応じて、電話やオンライン診療を組み合わせることもあります。遠方の方や仕事の都合がある方は、初回のオンライン診療を含めて相談できます。
仕事復帰の時期は、職種や作業の内容によって変わりますが、当院では通常、翌日から復帰可能とご説明しています。日常生活の動作は手術後から行えます。そのうえで、複雑な思考を伴うお仕事については、手術当日はご遠慮いただき、翌日から復帰していただくようご案内しています。
ただし、手術後の早い時期は再発につながるおそれがあるため、走る・重い物を運ぶといった肉体労働については、2週間程度お控えいただいています。
回復の早さには個人差があります。診察時に、お仕事の内容をうかがったうえで、無理のない復帰の目安を一緒に考えます。仕事復帰の考え方は、別記事「仕事への復帰の目安」でもう少し詳しくお伝えしています。
Where to Start
怖さが残るとき、まずどこから相談すればよいですか?
結論:手術を決める前で構いません。残っている不安を具体的に伝えていただくところから始めてください。
ここまで読んでも、不安がすべて消えるわけではないと思います。それで構いません。むしろ、「何が怖いのか」を一つずつ言葉にできたなら、それを持って相談に来ていただくのが、いちばんよい入口です。
手術を受けると決めてから来る必要はありません。「尿の管が不安」「持病があるが大丈夫か」「当日帰れるか心配」——そのままで結構です。残っている不安をお伝えいただければ、その方の状態に合わせて、確認すべきことと選べる方法を整理します。
Frequently Asked Questions
よくいただくご質問
Q. まだ手術を決めていなくても相談できますか?
A. できます。診断されたばかりで迷っている段階のご相談も承ります。手術を決める前に、不安の中身を整理することを目的に来ていただいて構いません。
Q. 尿の管は、どの方も必ず入れないのですか?
A. いいえ、必ずとは申し上げられません。尿の管の要否は麻酔の方法・手術の組み立て・患者さんの状態で変わります。腹腔鏡下に短時間の全身麻酔で行う当院の設計では入れない場合がありますが、診察のうえでご説明します。
Q. 痛みが心配です。
A. 全身麻酔に神経ブロックや鎮痛薬を組み合わせ、痛みをやわらげる工夫をします。ただし感じ方には個人差があり、術後に違和感や痛みが出ることはあります。痛み止めの使い方もあわせてご説明します。
Q. 血液をサラサラにする薬を飲んでいます。止めて行けばよいですか?
A. 自己判断で止めないでください。薬の種類や飲んでいる理由によって対応が異なります。受診時にお薬手帳をお持ちいただき、必要に応じてかかりつけの先生と休薬の可否を相談します。
Q. 当日、付き添いは必要ですか?
A. 全身麻酔のあとの帰宅になるため、付き添いをお願いする場合があります。ご本人の状態や帰宅後の見守り環境によって判断しますので、診察時にご相談ください。
Get in Touch
どこから相談すればよいですか?
鼠径ヘルニアは、放置しても自然に治る病気ではありません。ふくらみが出たり戻ったりする段階でも、痛みが強くなる前に相談しておくと、選べる方法を整理しやすくなります。
ご相談の際は、お薬手帳・通院中の診療科・これまでの手術歴・最近の検査結果(あれば)をご用意いただくと、判断が進みやすくなります。
新橋DAYクリニックは、JR新橋駅日比谷口から徒歩1分、東京メトロ銀座線新橋駅B出口すぐの場所にあります。完全予約制で、火曜・木曜・土曜に手術日を設け、水曜・金曜は20時まで診療しています。初診のオンライン診療も承っています。
- ご相談・ご予約 ― 0120-546-195
- 代表電話 ― 050-5527-1126
この記事の制作者
岡村 正之
新橋DAYクリニック院長・麻酔科医師
日本専門医機構認定麻酔科専門医
黒崎 哲也
新橋DAYクリニック外科統括医師
日本外科学会認定外科専門医・指導医
日本内視鏡外科学会技術認定医
日本消化器外科学会専門医
日本消化器外科学会消化器がん外科治療認定医
日本大腸肛門病学会指導医・専門医
日本消化器病学会専門医
日本消化器内視鏡学会専門医
日本ロボット外科学会Da Vinci certificate
日本ロボット外科学会Robo-DocPilot国内B級
大城 崇司
新橋DAYクリニック外科医師
東京慈恵会医科大学 上部消化管外科 准教授
富山大学附属病院消化器・腫瘍・総合外科 客員教授兼任
日本外科学会認定外科専門医、指導医
日本消化器外科学会専門医、指導医
日本内視鏡外科学会技術認定医(消化器・一般外科)
消化器がん外科治療認定医
日本がん治療認定医機構がん治療認定医
日本抗加齢学会専門医
Certificate of da Vinci console surgeon
日本肥満症治療学会評議員・データベース委員・教育委員・メンタルヘルス部会委員
日本内視鏡外科教育委員(減量・代謝改善手術担当)、縫合・結紮手技インストラクター
鈴木 淳一
新橋DAYクリニック外科医師
板橋中央総合病院外科診療部長
日本外科学会認定外科専門医
日本消化器外科学会専門医
消化器がん外科治療認定医
日本消化器病学会専門医
日本がん治療認定医機構がん治療認定医
日本消化器内視鏡学会専門医
日本腹部救急医学会認定医
板橋中央総合病院外科診療部長
新居 高
新橋DAYクリニック外科医師
板橋中央総合病院外科医長
日本外科学会認定外科専門医
鈴木 淳平
新橋DAYクリニック外科医師
日本外科学会認定外科専門医
日本内視鏡外科学会技術認定医
日本がん治療認定医機構がん治療認定医
日本消化器病学会専門医
日本消化管学会胃腸科専門医
日本腹部救急医学会認定医
板橋中央総合病院外科
監修:院長 岡村 正之(日本専門医機構認定 麻酔科専門医)|最終更新日:2026-06-19
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