麻酔と安全への取り組み ― 鼠径ヘルニア日帰り手術を、麻酔科専門医が設計しています
ANESTHESIA & SAFETY
麻酔と安全への取り組み ― 鼠径ヘルニア日帰り手術を、麻酔科専門医が設計しています
鼠径(そけい)ヘルニア ― いわゆる「脱腸(だっちょう)」の手術を受けるかどうか。診断を受けてもなお、「日帰りで本当に大丈夫なのか」「全身麻酔が怖い」「痛いのではないか」と、一歩を踏み出せずにいる方は少なくありません。その迷いは、ごく自然なものだと私たちは考えています。このページでは、皆さまが感じる不安を一つずつ受け止め、当院がどのように安全を組み立て、痛みにどう向き合っているのかを、できるかぎり具体的に、そして正直にお伝えします。
はじめに私たちの考えを一文で。日帰りの全身麻酔手術を成り立たせているのは、手術の腕だけではなく、手術前の評価から麻酔・覚醒・お帰りいただける状態かどうかの判断、万一の搬送までを「一つの安全の設計」としてつなげて運用する、麻酔科専門医の存在です。当院では、麻酔科専門医である院長 岡村 正之が、その設計の中心を担っています。
Four Common Worries
「手術が怖い」の中身を、ほどいてみる
「怖い」という気持ちは、いくつかの別々の不安が重なってできていることがほとんどです。漠然としたままだと大きく見えてしまいますが、中身を分けると、一つずつ向き合うことができます。よくうかがう心配は、主に次の4つです。
- 麻酔への不安 ― 全身麻酔は怖くないか、ちゃんと目が覚めるのか、体に負担はないのか。
- 痛みへの不安 ― 手術中・手術後はどのくらい痛むのか。
- 「日帰り」への不安 ― 入院しなくて本当に大丈夫なのか、当日に帰れるのか。
- 体の管(くだ)への不安 ― 尿の管(カテーテル)を入れられるのか、持病や年齢で受けられるのか。
このあとのセクションは、この一つひとつに順番に答えていく構成になっています。気になるところから読み進めていただいてもかまいません。
Designing Safety
麻酔科専門医が「安全を設計する」とは、どういうことか
手術というと、執刀している場面を思い浮かべる方が多いと思います。けれども、患者さんの安全を左右するのは、その前後を含めた一連の時間 ― 「周術期(しゅうじゅつき)」と呼ばれる、手術を決めた外来から、麻酔、手術、覚醒、そして日常へ戻るまでの全体です。
麻酔科専門医は、この周術期の全体を見渡し、安全を管理することを専門としています。当院では、麻酔科医・外科医・看護師がチームを組んで一人の患者さんにあたり、麻酔科医が代表として安全管理とリスク管理を主導しています。具体的には、次の流れを一つながりの設計として運用しています。
- 1. 手術前の評価 ― 持病・内服薬・過去の手術・全身状態を確認し、日帰りの全身麻酔が安全に成立するかを手術の前に判断します。
- 2. 麻酔の計画と実施 ― お一人おひとりの状態に合わせて麻酔を設計します。
- 3. 術中の継続監視 ― 生体モニターや麻酔の深さを測るモニターで、全身状態を手術の間ずっと見守ります。
- 4. 覚醒(目覚め)の質とお帰りの判断 ― 必要以上に麻酔を深くしない設計で目覚めを整え、客観的な基準を満たしたかどうかでお帰りいただける状態かを確認します。
- 5. 万一への備え ― 想定外のことが起きたときの対応・搬送までを、あらかじめ手順として用意しています。
当院の安全管理は、世界保健機関(WHO)の「安全な手術のためのガイドライン」を踏まえて運用しています。麻酔科医がこの全体を「配置されている」のではなく、自ら「設計し、主導している」こと ― それが、日帰り手術を安心して受けていただくための土台だと私たちは考えています。
(あわせて読む:鼠径ヘルニア日帰り手術について)
How Safe Is General Anesthesia
全身麻酔の安全性を、数字で誠実にお話しします
「全身麻酔が怖い」というお声は、診察でも本当によく伺います。怖いと感じるのは当然のことで、その気持ちを軽く扱うつもりはありません。だからこそ、印象論ではなく、出典のある数字でお伝えします。
日本麻酔科学会の調べでは、麻酔科専門医が担当した手術で「麻酔管理が原因」となった死亡は、100万例あたり約7例とされています。全身状態が良好な患者さんに限ると、100万例あたり約0.6例です(出典:日本麻酔科学会)。
これは「絶対に安全」という意味ではありません。医療に「絶対」はなく、リスクをゼロにすることはできません。けれども、麻酔科専門医が術前から術後までを管理することで、リスクをどこまで小さく保てているか ― その実際の水準を知っていただくことには意味があると考えています。
※上記の数値は日本麻酔科学会が公表している、集団全体の傾向を示すデータであり、当院個別の成績を示すものではありません。麻酔のリスクは患者さんお一人おひとりの全身状態によって異なります。診察の際に、ご自身の状態に即したご説明をいたします。
(関連記事:全身麻酔の日帰り手術は危険なのか?)
Pain Control
痛みへの3つの対策と、正直なお話
「痛いのではないか」という不安にお答えします。当院では、性質の異なる3つの方法を組み合わせて、痛みをできるだけ抑える設計にしています。
- 小さな切開(体への負担を抑える) ― 腹腔鏡(ふくくうきょう)を使い、5mm程度の小さな傷で手術を行います。傷が小さいことは、術後の痛みの軽減にもつながります。
- 全身麻酔(手術中の痛みを遮断する) ― 手術中、痛みを感じることはありません。
- 神経ブロック注射(伝達麻酔)+鎮痛薬 ― 痛みを伝える神経にあらかじめはたらきかける注射と鎮痛薬を併用し、手術後の痛みをやわらげます。
麻酔科専門医は、痛みがどのように強まっていくか(増幅していくか)という仕組みにも着目して鎮痛を組み立てます。痛みを「あとから抑える」のではなく、「強まる前に抑える」という考え方です。
ただし、正直にお伝えします。痛みの感じ方には個人差があり、術後にまったく痛みがないわけではありません。多くの方は鎮痛薬でコントロールできる範囲とお話しになりますが、感じ方は人それぞれです。痛みが心配な点は診察のときに遠慮なくお聞かせください。つらいと感じられたときにすぐご相談いただける連絡体制も整えています。
Urinary Catheter
尿の管(カテーテル)について
尿の管に対する抵抗感は、多くの方が口にされる心配の一つです。管を使わないことは、不快感がないだけでなく、尿路の感染リスクを抑えることにもつながると考えています。手術後はご自身で排尿できることを確認したうえで、お帰りいただきます。
Q. 全身麻酔だと、尿の管(カテーテル)を入れられるのでしょうか。
A. 当院の鼠径ヘルニア手術では、手術と全身麻酔を短時間で管理する設計のため、尿道カテーテルを使用していません。手術が終わって覚めたあとは、ご自身で歩いてお手洗いに行き、自然に排尿していただける状態に戻ります。
(関連記事:鼠径ヘルニア手術で尿道カテーテルは必要ですか?)
Discharge Criteria
なぜ「当日に帰れる」のか ― 時間ではなく、基準で判断します
「本当に当日に帰って大丈夫なのか」という不安は当然です。当院がお帰りいただける状態かどうかを判断する基準は、「手術から何時間経ったか」という時間ではありません。回復の状態を点数で確認する客観的な基準(Aldreteスコア・PADSSなどと呼ばれる評価)を用いています。具体的には、次のような項目を一つずつ確認します。
- 麻酔からしっかり目覚め、意識がはっきりしているか
- 血圧・脈拍・呼吸などのバイタルが安定しているか
- ふらつかずに自分で歩けるか
- 吐き気がなく、水分が摂れるか
- 手術した部位からの出血や強い痛みがないか
これらの基準を満たして初めて、ご帰宅いただけると判断します。来院から帰宅までの目安は約4時間で、多くの方は歩いてお帰りになります。当院の日帰り麻酔の運用は、日本麻酔科学会の日帰り麻酔に関する基準に準拠しています。
Q. もし当日に基準を満たさなかったら、どうなりますか。
A. 無理にお帰りいただくことはありません。状態に応じて経過を見させていただき、当日の帰宅が安全でないと判断した場合には、連携している病院への入院をご案内します。「当日に帰すこと」が目的ではなく、「安全にお帰りいただけること」を確認するための基準です。
Emergency Preparedness
万一への備え ― 緊急対応と病院への搬送連携
安全とは、何も起きないことを願うことではなく、「起きたときの準備をしておくこと」だと私たちは考えています。どれほど準備を整えても医療に「絶対」はありません。だからこそ、万一のときにすぐ動ける備えを具体的に用意しています。
- 緊急時にすぐ動ける看護師の配置 ― 手術や処置に固定されない看護師を置き、急な対応が必要になった際にすぐ動ける体制をとっています。
- 緊急医療機器の常備 ― 止血のための材料、開腹に対応するための器械、気道確保のための器具(ビデオ喉頭鏡)、AED・除細動器などを備えています。
- 病院への迅速な搬送連携 ― 当院の医師は、東京慈恵会医科大学附属病院・板橋中央総合病院・国際医療福祉大学三田病院などの医療機関に在籍しており、より高度な対応が必要になった場合に、速やかに搬送し連携できる体制を築いています。
当院だけで完結させようとせず、必要なときに適切な場所へつなげること ― それも安全の設計の一部です。起こってほしくないことだからこそ、起きたときの段取りをあらかじめ決めています。
Patients with Conditions
持病のある方・ご高齢の方へ ― 術前評価で「受けられるか」を見極めます
「持病があるから」「もう年だから」と手術をためらわれる方、あるいは別の場所で「年齢的に難しい」と言われた方こそ、麻酔科専門医による術前評価の意味が大きいと考えています。日帰りの全身麻酔が安全に成立するかどうかを、手術の前にきちんと判断するためです。
Q. 高齢ですが、年齢制限はありますか。
A. 一律の年齢制限は設けていません。お薬などで全身の状態が安定していれば、ご高齢の方でも日帰り手術が可能な場合があります。診察と検査のうえで判断します。
Q. 血液をさらさらにする薬を飲んでいます。
A. お薬の種類や量によって対応が異なります。中止が必要かどうか、また中止する場合の時期は、かかりつけの先生とも連携しながら慎重に判断します。自己判断での中止は危険ですので、必ず事前にお知らせください。
一方で、心臓や肺の疾患、重度の糖尿病、下腹部(膀胱・前立腺・大腸・直腸など)の手術を受けたことがある場合などは、日帰りが適さないことがあります。状況によっては可能な場合もありますので、まずはご相談ください。
術前評価の結果、日帰り手術が適さないと判断した場合は、その理由をきちんとご説明したうえで、適した病院をご紹介します。「お引き受けできないこともある」と正直にお伝えできることもまた、安全を専門に扱う施設の役割だと考えています。安全のために、無理はしません。
Flow, Visits & Cost
来院から帰宅までの流れ・通院・費用
時間と費用は、受診をためらう大きな理由です。当院では来院の回数を抑え、費用の見通しを立てやすくする工夫をしています。初めての受診から復帰までの道のりを、時間とお金の両面でお伝えします。
- 1回目の来院:初診 ― 症状を確認して診断し、血液検査・心電図・呼吸機能などの術前検査を行います。動画も用いて手術の内容をご説明します。ご希望や状態に応じて手術日を調整します。初診はオンライン診療にも対応しています。
- 2回目の来院:日帰り手術 ― 腹腔鏡を用いて体の内側から修復する手術を行います。お腹に約5mmの傷を3か所つくり、全身麻酔と神経ブロック注射(伝達麻酔)を併用します。手術自体はおよそ30分、来院から帰宅までの目安はおよそ4時間です。多くの方は歩いてお帰りになり、手術後の食事制限はなく、糸を抜く処置(抜糸)も必要ありません。
- 術後のフォロー ― 手術の翌日にお電話で様子を伺います。術後10日〜2週間ごろに術後の診察を行いますが、状態に問題がなければご来院いただかずに済ませることも可能です。緊急時は24時間の連絡体制を用意しています。
Q. 費用はどのくらいですか。保険は使えますか。
A. 鼠径ヘルニアの手術は全額が健康保険の適用対象です。高額療養費制度や限度額適用認定もご利用いただけます。3割負担の方の目安として、腹腔鏡手術がおよそ8万円(高額療養費の所得区分により異なります)、これに診察・術前検査でおよそ6千円が加わります。入院費がかからないため、費用を抑えやすいのも日帰りの特長です。お支払いはキャッシュレスに対応しています。
※上記の費用はあくまで目安です。負担割合や所得区分、お一人おひとりの状態によって変わります。正確な金額は診察の際にご案内します。
Q. 遠方からでも相談・受診できますか。
A. オンライン診療やお電話でのご相談を活用いただける場合があります。術後のフォローも、状態に応じて電話やオンラインを組み合わせます。宿泊が必要な方には近隣のご案内も可能です。まずはご相談ください。
Q. 女性ですが受診できますか。
A. はい。鼠径部の症状はご相談しにくいこともありますが、プライバシーに配慮して診察します。女性の患者さんには、必要に応じて女性スタッフが同席します。
(→ 費用の詳しい解説(高額療養費制度) / 受診予約はこちら)
Surgical Results
手術実績 ― 数字は「同じ安全を続けている」しるしです
当院の鼠径ヘルニア手術の施行数は、2025年度 580件、2024年度 633件、2023年度 587件です。
件数をお示しするのは、多さを誇るためではありません。同じ手順・同じ術前評価・同じ帰宅基準・同じ緊急時の備えを、繰り返し安定して運用してきた積み重ねをお伝えするためです。だからこそ、数字には対象期間と数え方を明記します。
手術室は2室。外科専門医・麻酔科専門医・周術期麻酔看護師・手術看護師がチームで日帰り手術にあたります。
※ 鼠径ヘルニア手術施行数(腹腔鏡手術・日帰り手術・成人のみ)。累計件数は基準日を確認のうえ掲載します。
When to Seek Care
「戻らなくなった」「痛い」 ― 早めの受診が合理的な理由
不安をあおるつもりはありません。淡々と事実だけをお伝えします。鼠径ヘルニアは、自然に治ることはありません。多くの場合はゆっくり進みますが、飛び出した腸などが元に戻らなくなる「嵌頓(かんとん)」という状態になると、命に関わる場合があります。
だからこそ、急ぐ必要がないうちに ― つまり、ご自身のタイミングで落ち着いて準備できるうちに相談しておくことが、合理的な選び方だと私たちは考えています。膨らみが戻りにくい、強く痛むといった変化があるときは、早めにご連絡ください。
Contact
まずは、ご相談ください
受けるかどうかを今すぐ決める必要はありません。「自分の場合はどうなのか」を知ることから始めていただければと思います。「持病があるが大丈夫か」「自分は受けられるのか」 ― どんな小さなことでも構いません。気になることは、お気軽にお尋ねください。
- ご相談・ご予約(通話料無料) ― フリーダイヤル 0120-546-195
- 代表電話 ― 050-5527-1126
- メール ― info@1dc.jp
- 所在地 ― 〒105-0004 東京都港区新橋1-15-7 新橋NFビル6階(JR新橋駅 徒歩1分・完全予約制)
オンライン診療にも対応しています。新橋駅徒歩1分、平日20時まで・土曜も診療しております。
この記事の制作者
岡村 正之
新橋DAYクリニック院長・麻酔科医師
日本専門医機構認定麻酔科専門医
黒崎 哲也
新橋DAYクリニック外科統括医師
日本外科学会認定外科専門医・指導医
日本内視鏡外科学会技術認定医
日本消化器外科学会専門医
日本消化器外科学会消化器がん外科治療認定医
日本大腸肛門病学会指導医・専門医
日本消化器病学会専門医
日本消化器内視鏡学会専門医
日本ロボット外科学会Da Vinci certificate
日本ロボット外科学会Robo-DocPilot国内B級
大城 崇司
新橋DAYクリニック外科医師
東京慈恵会医科大学 上部消化管外科 准教授
富山大学附属病院消化器・腫瘍・総合外科 客員教授兼任
日本外科学会認定外科専門医、指導医
日本消化器外科学会専門医、指導医
日本内視鏡外科学会技術認定医(消化器・一般外科)
消化器がん外科治療認定医
日本がん治療認定医機構がん治療認定医
日本抗加齢学会専門医
Certificate of da Vinci console surgeon
日本肥満症治療学会評議員・データベース委員・教育委員・メンタルヘルス部会委員
日本内視鏡外科教育委員(減量・代謝改善手術担当)、縫合・結紮手技インストラクター
鈴木 淳一
新橋DAYクリニック外科医師
板橋中央総合病院外科診療部長
日本外科学会認定外科専門医
日本消化器外科学会専門医
消化器がん外科治療認定医
日本消化器病学会専門医
日本がん治療認定医機構がん治療認定医
日本消化器内視鏡学会専門医
日本腹部救急医学会認定医
板橋中央総合病院外科診療部長
新居 高
新橋DAYクリニック外科医師
板橋中央総合病院外科医長
日本外科学会認定外科専門医
鈴木 淳平
新橋DAYクリニック外科医師
日本外科学会認定外科専門医
日本内視鏡外科学会技術認定医
日本がん治療認定医機構がん治療認定医
日本消化器病学会専門医
日本消化管学会胃腸科専門医
日本腹部救急医学会認定医
板橋中央総合病院外科
監修:院長 岡村 正之(日本専門医機構認定 麻酔科専門医)|最終更新日:2026-06-18
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