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鼠径ヘルニアのロボット支援手術とは? 腹腔鏡手術(TAPP法)との違いと保険適用

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腹腔鏡手術で使う鉗子の持ち手の部分を近くから写した写真
記事最終更新日: 2026年10月25日

ROBOTIC-ASSISTED INGUINAL HERNIA REPAIR

鼠径ヘルニアのロボット支援手術とは? 腹腔鏡手術(TAPP法)との違いと保険適用

鼠径ヘルニアのロボット支援手術は、2026年6月から保険で受けられるようになりました。

新橋DAYクリニックの手術室で、外科医が腹腔鏡手術の器具を手に持ち、モニターを見ている様子
当院の腹腔鏡手術(TAPP法)。医師が手術台の横で、器具を直接持って操作します。

Key Points

はじめに(結論)

  • 手術料の点数は、腹腔鏡手術と同じです。ロボットを使っても、手術料の上乗せはありません。
  • 保険でロボット支援手術を行えるのは、国の施設基準を満たして届け出た病院です。
  • これまでの研究では、術後の痛みと再発に、はっきりした差は示されていません。合併症は、ロボットの方が少なかった試験がある一方、複数の研究をまとめた解析では有意な差は示されておらず、結果は一致していません。
  • 手術時間は、ロボットの方が長かった研究が多い一方、短かった試験もあります。病院側の費用は、ロボットの方が高いという報告が一貫しています。
  • 当院は、腹腔鏡手術(TAPP法)を日帰りで行っています。ロボット支援手術は、現在は行っていません。

この記事では、ロボット支援手術の仕組み、保険と費用、受けられる施設、研究で分かっていること、手術方法を選ぶときに確かめたいことを順に説明します。

Robotic-assisted Surgery

ロボット支援手術とは

ロボット支援手術は、腹腔鏡手術の一種です。

  • お腹に小さな穴をあけ、カメラと細い器具を入れます。お腹の中から入り、腹膜の裏側にメッシュを置いて補強します(TAPP法)。ここは腹腔鏡手術と同じです。どちらも全身麻酔で行います。
  • 違いは、器具の動かし方です。腹腔鏡手術では、医師が手術台の横で器具を直接持ちます。ロボット支援手術では、医師は少し離れた操作台に座り、3次元の拡大画像を見ながら、ロボットのアームに付いた関節のある器具を動かします。
  • ロボットが自動で手術をするのではありません。操作するのは医師です。

鼠径ヘルニアの比較試験の多くは、TAPP法をロボットで行う方法と、腹腔鏡で行う方法を比べています。手術方法ごとの違いは「TAPP・TEP・鼠径部切開法の違い」もご覧ください。

Insurance Coverage

2026年6月から保険適用に

  • 2026年度の診療報酬改定で、腹腔鏡下鼠径ヘルニア手術(K634)が、ロボット(内視鏡手術用支援機器)を用いて行っても算定できる手術に加わりました。2026年6月1日から適用されています。
  • 日本ヘルニア学会は、保険収載に合わせて提言を改訂し、2026年6月以降に実施する施設に守るよう求めています。
  • それまでは、保険診療に位置づけられていない自由診療でした(同学会の2024年の提言)。
  • 大腿ヘルニアのロボット支援手術は、保険適用外です(同学会のよくある質問)。

Cost

費用:手術料の点数は同じ

  • ロボット支援手術も腹腔鏡手術も、手術料は同じ「腹腔鏡下鼠径ヘルニア手術」の点数(22,960点)で計算します。
  • ロボットを使ったときに上乗せされる加算(内視鏡手術用支援機器加算)がありますが、鼠径ヘルニアの手術はその対象に入っていません。この加算は2026年度に新しくできたもので、ロボット手術を年間200例以上行う病院での、がんの手術などが対象です。
  • どちらも保険診療なので、高額療養費制度の対象です。
  • 窓口での負担の総額は、入院の有無や日数、麻酔、検査などで医療機関ごとに変わります。当院の費用は「鼠径ヘルニア日帰り手術の費用|自己負担の目安と高額療養費」をご覧ください。

Where It Is Available

受けられる施設

保険でロボット支援手術を行うには、国の施設基準を満たして届け出る必要があります。主な条件は次のとおりです。

  • 外科(または消化器外科)と麻酔科を標榜している病院であること
  • 鼠径ヘルニアの手術を年間30例以上行い、そのうち腹腔鏡手術が年間15例以上であること
  • 外科の常勤医師が2名以上いて、そのうち1名以上が5年以上の経験をもつこと
  • 緊急手術ができる体制があること、臨床工学技士が常勤していること
  • 胃や大腸などのロボット支援手術の施設基準を、すでに届け出ていること など

入院の有無や日数は、病院ごとに違います。受ける病院にお確かめください。

Evidence

比較試験で分かっていること

ロボット支援と腹腔鏡を比べた研究の結果は、研究によって分かれています。

研究(どんな研究か)分かったこと
RIVAL 試験(2020年)
多施設の無作為化比較試験(予備的な試験)。片側のヘルニアの102人、術後30日まで。2年後までの追跡の報告もある
手術時間(中央値)はロボット75.5分・腹腔鏡40.5分。費用はロボット3,258ドル・腹腔鏡1,421ドル。術後1週・30日の痛みに差はなかった。2年後の再発は両方とも1人で、差はなかった。著者は「単純な鼠径ヘルニアでは、ロボットによる臨床上の利点は示されなかった」とまとめている
ROLAIS 試験(2025年)
1施設の無作為化比較試験(非盲検)。150人。主な評価項目は炎症の指標(CRP)
ロボットの方が、手術時間が13.4分短く、合併症が少なく(23.0%と41.5%)、手術当日に退院できた割合が高かった(95.9%と81.5%)。慢性の痛みと再発には有意な差はなかった。著者は「ロボットの方が、手術の体への負担・合併症・手術時間・入院が少なかった」とまとめている
メタ解析(2026年)
無作為化比較試験3件とコホート研究11件をまとめた解析
ロボットの方が手術時間が平均10.93分長かった。慢性の痛みと再発に有意な差は示されなかった。費用は一貫してロボットの方が高かった。著者は「短期の成績は同等だが、手術時間が長く、直接の費用が高い」とまとめている

まとめ:

  • 術後の痛みと再発には、はっきりした差は示されていません。
  • 合併症と手術時間は、試験によって結果が分かれています。執刀医や施設の経験によっても変わります。
  • 病院側の費用は、ロボットの方が高いという報告が一貫しています(患者さまの手術料の点数は同じです)。
  • 日本ヘルニア学会の提言は、複雑な症例をロボットで行う場合は、指導資格をもつ医師(プロクター)の適切な指導のもと、十分な経験をもつ執刀医が行うよう求めています。

How to Choose

手術方法を選ぶときに

大切なのは、術式の名前よりも、ご自身の状態に合っているかです。

  • ヘルニアの種類と大きさ
  • これまでの手術歴(ヘルニアの手術、前立腺がんの手術、膀胱全摘の手術など)
  • 持病や、飲んでいるお薬
  • お仕事や生活の都合(入院できる日数など)

日本ヘルニア学会の提言によると、お腹の内側(腹膜の裏)に広くメッシュを入れた手術の後の再発や、前立腺がん・膀胱全摘の手術の後など、お腹の内側を広くはがした後のヘルニアは、複雑な症例とされています。国内外の診療ガイドラインでは、こうした複雑な症例には一般に鼠径部切開法(足の付け根を切開する方法)が勧められており、患者さんと十分に話し合ったうえで術式を選ぶことが望ましいとされています。

受診の際は、次のことを担当医に確かめると選びやすくなります。

  • 自分のヘルニアには、どの方法が向いているか
  • 入院は必要か、何日か
  • 手術の後、困ったときの連絡先と対応時間

Why We Choose Laparoscopy

当院が鼠径ヘルニアに腹腔鏡手術を選んでいる理由

当院の手術を担当する外科医には、ロボット支援手術の資格をもつ医師もいます。そのうえで当院は、鼠径ヘルニアの日帰り手術には腹腔鏡手術(TAPP法)を選んでいます。理由は次のとおりです。

  • 痛みと再発:これまでの研究では、ロボット支援手術と腹腔鏡手術で、術後の痛みと再発にはっきりした差は示されていません。日帰りの手術で両方を比べたスイスの研究でも、合併症の起こり方は同じくらいでした。
  • 傷の大きさ:当院の腹腔鏡手術は、5mmの傷を3か所あけて行います。ロボット支援手術では、ロボットの器具を入れる8mmの筒が必要で、機種や病院によってはカメラに12mmの筒を使います。
  • 準備の時間:ロボット支援手術では、手術を始める前に、ロボットのアームを患者さんの体に合わせて据え付ける作業(ドッキング)が加わります。日帰りの手術で両方を比べたスイスの研究では、片側の手術時間はロボットの方が平均11分長く、著者はその主な理由を据え付けの時間と考えています。複数の研究をまとめた解析でも、ロボットの方が平均で約11分長い結果でした(短かった試験もあります)。
  • 麻酔の時間:麻酔の時間が長くなるほど、術後の吐き気が起こりやすくなり、手術の時間が長いと予定外の入院が増えることが報告されています。麻酔科専門医の院長は、その日のうちに安全にお帰りいただくために、麻酔の時間をできるだけ短く保つことを大切にしています。当院の手術時間の目安は約30分です。
  • 手術料:保険の手術料の点数は同じです。

こうしたことから、当院では、据え付けの時間が加わらず、傷もより小さい腹腔鏡手術を選んでいます。当院の外科医は、鼠径ヘルニアの日帰り手術では、いまのところロボットを使う利点は大きくないと考えています。

ただし、ロボット支援手術も日帰りで安全に行えたという報告や、手術時間・合併症・当日の退院でロボットの方がよい結果だった試験もあり、研究は続いています。どの方法が合うかは、ヘルニアの状態や手術歴によって変わります。

なお、ここに書いたのは、2026年10月時点での当院の考えです。ロボットの技術は改良が続いており、今後どうなるかはまだ分かりません。いまの腹腔鏡手術より小さな傷で、より短い時間で手術ができるロボットの技術が登場し、当院のような日帰り手術のクリニックでも保険で行えるようになれば、当院でもロボット支援手術を取り入れる可能性があります。

Our Approach

当院の日帰り腹腔鏡手術(TAPP法)

  • 当院では、腹腔鏡手術(TAPP法)を、全身麻酔で、日帰りで行っています。ロボット支援手術は、現在は行っていません。
  • 当院は鼠径ヘルニアの手術に特化しているため、細い5mmのハイビジョン(HD)カメラを使い、おへそを含めて5mmの傷3か所で手術を行っています。
  • 手術時間は約30分、来院から帰宅までは約4時間が目安です(個人差があります)。通院は基本2回です。
  • 麻酔の安全の仕組みと、帰宅してよいかを決める基準は、日本専門医機構認定 麻酔科専門医である院長が設計しています(「麻酔と安全への取り組み」)。帰宅は時間ではなく基準で決めます(「なぜ来院から帰宅まで約4時間で帰れるのか」)。
  • 手術の後は、24時間対応の緊急連絡体制があります。
  • 持病などで入院での手術が望ましい場合は、入院設備のある提携医療機関をご紹介しています。
腹腔鏡手術で使う腹腔鏡(カメラ)と鉗子2本を、青い布の上に並べた写真
腹腔鏡手術で使う腹腔鏡(カメラ)と鉗子。

ロボット支援手術を検討されている方も、まずはご自身のヘルニアの状態を確かめることから始めてください。当院でも、診察のうえで、日帰りの腹腔鏡手術が合うかどうかをご説明します。

FAQ

よくある質問

A. これまでの比較試験では、術後1週・30日の痛みにも、慢性の痛みにも、はっきりした差は示されていません。痛みの感じ方には個人差があり、どちらの方法でも痛み止めを使って対処します。

A. 保険診療では、手術料の点数は腹腔鏡手術と同じです。ロボット用の加算(ロボット手術を年間200例以上行う病院での、がんの手術などが対象)にも入っていません。ただし、入院の有無や日数などで、窓口での負担の総額は医療機関ごとに変わります。

A. 入院の有無や日数は、病院ごとに違います。受ける病院にお確かめください。なお、1施設で行われた比較試験(ROLAIS試験)では、ロボット支援手術の方が、手術当日に退院できた割合が高かったと報告されています。

A. 日本ヘルニア学会によると、大腿ヘルニアのロボット支援手術は保険適用外です。

A. ヘルニアの種類や大きさ、これまでの手術歴、持病、お仕事の都合によって、合う方法は変わります。お腹の内側に広くメッシュを入れた手術の後の再発や、前立腺がん・膀胱全摘の手術の後などでは、鼠径部切開法が勧められることもあります。担当医と相談して決めてください。

References

参考にした資料

  1. 厚生労働省「診療報酬の算定方法の一部を改正する件」(令和8年厚生労働省告示第69号)別表第一 第10部 手術 通則18・K634・K939-4
  2. 厚生労働省「特掲診療料の施設基準等及びその届出に関する手続きの取扱いについて」(令和8年3月5日 保医発0305第8号)第72の5の2
  3. 日本ヘルニア学会「ロボット支援鼠径部ヘルニア修復術に対する日本ヘルニア学会からの提言(2026年改訂)」https://jhs.gr.jp/robot_support.html
  4. 日本ヘルニア学会「同(2024年改訂)」https://jhs.gr.jp/robot_support_2024.html
  5. Prabhu AS, et al. Robotic Inguinal vs Transabdominal Laparoscopic Inguinal Hernia Repair: The RIVAL Randomized Clinical Trial. JAMA Surg. 2020(PMID 32186683)
  6. RIVAL 試験の1年・2年の成績. Surg Endosc. 2023(PMID 35578051)
  7. Inflammatory response and short-term outcomes after laparoscopic versus robotic transabdominal preperitoneal inguinal hernia repair: randomized clinical trial (ROLAIS). Br J Surg. 2025(PMID 40277023)
  8. Short-term outcomes of robotic versus laparoscopic TAPP for inguinal hernia repair: a systematic review, meta-analysis, and GRADE assessment. J Robot Surg. 2026(PMID 41941030)
  9. Results of robotic TAPP and conventional laparoscopic TAPP in an outpatient setting: a cohort study in Switzerland. Langenbecks Arch Surg(PMCID PMC9468071)
  10. Robotische Hernienchirurgie I: Robotische Leistenhernienversorgung (r-TAPP). Chirurg(PMCID PMC8324587)
  11. Sinclair DR, Chung F, Mezei G. Can postoperative nausea and vomiting be predicted? Anesthesiology. 1999(PMID 10422935)
  12. Gold BS, Kitz DS, Lecky JH, Neuhaus JM. Unanticipated admission to the hospital following ambulatory surgery. JAMA. 1989(PMID 2810644)

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この記事の制作者

監修:院長 岡村 正之(日本専門医機構認定 麻酔科専門医)|最終更新日:2026-10-25

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