結論からお伝えすると、危険ではありません。むしろ麻酔科医が全身麻酔を行うので、日帰りでも安全性が高いと考えます。
鼠径ヘルニアに関わらず、局所麻酔で日帰り手術を行っている外科医は、全身麻酔での日帰りは特有の危険性があるのだと言います。しかし麻酔科医から見れば、それは大きな誤りです。現在使われている麻酔薬は昔のものより大きく進化しており、長時間体内に残存することはありません。そのため帰宅時にはほぼ薬剤が代謝されています。
また、全身麻酔は肺や心臓に負担がかかるというイメージがあるかもしれませんが、これは手術侵襲といって、体を傷つける行為そのものが体の臓器にとって負荷となるものです。つまり局所麻酔、全身麻酔を問わず発生します。そのため手術前の診察で、患者様の状態を適切に評価し、手術適用かどうかをしっかり見極めることが重要となるのです。
麻酔科医の視点では、局所麻酔と全身麻酔は選択する麻酔薬の違いという認識でしかありません。全身麻酔薬は危険、局所麻酔薬だから安全というわけではなく、どちらの薬剤にもアレルギーや循環不全など、頻度としては少ないながらも相応のリスクがあります。重要なのはそれらを理解した上で安全に使用し、万が一問題が起こった際に速やかに患者対応する医師の存在です。
一般的に局所麻酔下の手術では麻酔科医はつきません。しかし総合病院では、外科医単独で局所麻酔下で手術を行っている際に出血やアレルギーなど大きな問題が起これば、近くにいる麻酔科医に協力を求めます(通常全身麻酔下の手術も同時並行で多数行われているため手術室内に麻酔科医がいます)。そして麻酔科医がバイタルモニタなどから状況を的確に判断し、薬剤の投与や、輸液や輸血など処置を行います。
クリニックでは、局所麻酔下手術の場合、おそらく近くに麻酔科医はいないでしょう。そのため何か大きな問題がおこれば外科医が単独で対応することとなります。当院のようなクリニックで安全性を担保した上でこうした手術医療が行えるのは、僭越ながら麻酔科医の存在が必要不可欠であると考えております。外科医単独で対応するより、麻酔科医とともに対応した方が迅速でより安全なのは言うまでもありません。
著者・文責: 岡村正之 新橋DAYクリニック院長 日本専門医機構認定麻酔科専門医